【第2話】インナーカラーを緑に染めたスタッフに「染め直してきて」と指示していい?〜薬局での身だしなみに対する処方箋〜

舞台・登場人物

あおば薬局

開局10年目。内科・小児科の門前にある、地域密着型の小規模調剤薬局。スタッフは薬剤師3名、医療事務3名の計6名体制。

田中 健一(たなか けんいち/45歳)

【役職】あおば薬局 薬局長(管理薬剤師・経営者)

本連載の主人公であり、全国の悩める薬局長の分身。「スタッフは家族」がモットーの心優しいお人好し。患者様想いで調剤や服薬指導のスキルは一流だが、労働基準法やハラスメントの知識はネットの拾い読みレベル。

佐藤 雅子(さとう まさこ/52歳)

【役職】ベテラン医療事務(お局様)

開局当初からあおば薬局を支える絶対的エース。複雑なレセコン入力や保険請求も一人で完璧にこなすため、田中薬局長も頭が上がらない。患者様には非常に丁寧で愛想が良い。

高橋 結衣(たかはし ゆい/24歳)

【役職】若手医療事務(入社2年目)

真面目で仕事の覚えも早く、患者様からの印象も良い今どきの若手スタッフ。デジタルツールにも強く、薬局の業務効率化にも貢献している。推し活に全力。

社会保険労務士

田中薬局長の顧問・駆け込み寺

本連載の解説役。医療現場の特殊な労務環境に精通しているプロフェッショナル。パニックになって駆け込んでくる田中薬局長の話を冷静に聞き、優しく寄り添いながらも、法的リスクにはズバッとメスを入れる。


1. 【事件発生】緑のインナーカラーで出勤してきた若手と、お局の冷ややかな視線

開局10年目の「あおば薬局」。お局スタッフ・佐藤さんとの関係も改善し、ようやく平穏な日々が訪れたと安心していた田中薬局長(45歳)でしたが、ある朝、出勤して目を疑いました。

真面目で服薬指導の補助もそつなくこなす20代の若手医療事務・高橋さんが、髪の内側を鮮やかな「緑色」に染める、いわゆるインナーカラーで出勤してきたのです。 普段は髪を下ろして隠しているつもりなのでしょうが、お辞儀をしたり、耳に髪をかけたりするたびに、チラリと(いや、かなりハッキリと)主張するグリーン。聞けば、彼女が熱狂的に応援している人気アーティストの新しいヘアスタイルを真似たとのこと。

「ここは医療の現場だぞ!体調が優れない患者様も来るのに!」 田中薬局長は高橋さんへすぐに伝えようとしましたが、

(待てよ、最近は少し注意しただけで「パワハラだ」「個人の自由だ」と騒がれる時代だ。不用意な発言で彼女が辞めてしまったら困る……)

さらに田中薬局長の胃を痛くさせたのは、ベテランの佐藤さんが投薬カウンターの奥から「薬局長、あれ注意しないんですか?」と言わんばかりの冷ややかな視線を送ってきていることです。 他のスタッフに悪影響が出る前に何とかしなければ。板挟みで悩みに悩んだ田中薬局長は、再び顧問である私(社会保険労務士)に助けを求めてきました。

2. 【社労士への相談】「強制的な染め直し」はパワハラか?

田中薬局長: 「先生、聞いてくださいよ! 今度は若手の高橋が髪の内側を緑にしてきましてね。本人は『インナーカラーだから見えにくい』って言うんですが、動くたびに悪目立ちするんですよ! ベテランの佐藤さんの目も怖いですし、明日までに染め直してください!とキツく命令しても問題ありませんよね?」

社労士: 「田中薬局長、次から次へと本当に気が休まりませんね。お気持ちは痛いほどわかりますが、ちょっと待ってください。強引に染め直させれば、パワハラに発展しかねませんよ。」

田中薬局長: 「パワハラですか!? 我々は医療従事者ですよ? インナーカラーなら許されるなんて理屈は通らないでしょう!」

社労士: 「確かに身だしなみは重要です。しかし、頭ごなしに命じるのはリスクが高いです。例えば、『明日までに染め直してきなさい』と注意したところ、『でも、佐藤さんだって茶色に染めているじゃないですか。内側ならいいと思ったんです。何が違うんですか?』と反論される可能性だったあります。」

田中薬局長: 「うっ……。確かに、うちにも茶髪のスタッフはいますが、それは黙認しています。緑色はさすがに度が過ぎていると思うのですが、どう指導すればいいのでしょうか?」

社労士: 「まずは『日本ヘアカラー協会』のレベルスケールなどを用いて、『当薬局ではレベル〇まで』という明確で客観的な基準を設けることです。」

田中薬局長: 「なるほど、それなら客観的ですね! よし、今日にでも私が細かい身だしなみのルールを作って、全員に守らせます!」

社労士: 「田中さん、経営者がルールを一方的に押し付けると、『経営者の趣味を押し付けているのでは?』とスタッフは疑心暗鬼になります。ここは、スタッフ自身に『身だしなみルール』を作ってもらう方が無難であると考えます。」

3. 【プロの解決策】ルールは「与える」のではなく「作らせる」

今回の「髪色の問題」に対して、当事務所が提案した解決策のポイントは以下の2点です。

いきなり否定しない

「黒髪の方が似合うよ。」も場合によってはセクハラです。染め直しの強制もパワハラの可能性があり、慎重な対処が必要です。

客観的な基準を示す(ヘアカラースケール等の活用)

個人の感覚に依存する「清潔感」ではなく、誰もが納得できる客観的な基準(レベル〇まで、インナーカラーの取り扱いなど)を設けます

身だしなみルールはスタッフ主導で考えてもらい、自覚を促す

経営者のトップダウンは必ず反発を生みます。「患者様を不快にさせないためにはどうすべきか」をスタッフ自身に議論させることが、最も有効な意識改革になります。

4. 【その後】あおば薬局のチームワークがさらに向上!

田中薬局長はすぐにスタッフ全員を集め、素直な思いを伝えました。 「皆のおしゃれをいちいち規制したくはない。だからこそ、医療人としての身だしなみがどうあるべきか、皆で一度ルールを考えてみてほしい」

話し合いの場では、薬局ならではの意見が次々と飛び出しました。ベテランの佐藤さんも積極的に発言します。 「爪が長いと、お薬のPTPシート(包装)を傷つけちゃうかもね」 「胸ポケットのキャラクターボールペンは、お辞儀をした時に患者様に当たって危ないですよね」

結果として、高橋さんは「インナーカラーなら目立たないと思っていましたが、患者様からの見え方や、プロとしての配慮が足りていなかった」と反省し、自発的に髪色を落ち着かせました。さらに、スタッフ全員で身だしなみルールを作成したことで、あおば薬局全体のチームワークと「プロ意識」が大きく向上するという想定外の成果をもたらしたのです。


💡 身だしなみルールや、スタッフへの指導でお悩みの経営者様へ

労働トラブルは、表面的な事象を力で押さえつけるのではなく、プロセスを通じて「組織を成長させるチャンス」に変えることができます。

「うちのスタッフの服装、少し気になるけれどどう注意していいか分からない」 「インナーカラーやネイルなど、どこまで許容していいか悩んでいる」

そんなお悩みがあれば、問題がこじれる前にぜひ一度、当事務所へご相談ください。 日中お忙しい先生のために、【スマホから送れる無料LINE相談】を受け付けております。些細なモヤモヤでも構いません、お気軽にお声がけください!